お薦めに上がってなにげなく見はじめた YouTube 動画だが、「北朝鮮人は北朝鮮についてどう思っているの?」と、2本続けて食い入るように見てしまった。内容は、韓国に亡命してきた北朝鮮出身の若者2名に対するインタビュー動画。2016年から2017年にアップロードされたもの。こういう一般市民目線で、しかも若者から、北朝鮮の話をじっくり聞くことはなかったから。
一本目は、いかに北朝鮮の生活を描く。貧しく、自由のない生活。とくに1990年代には飢餓でたくさんの人が死んだこと。とくに女性は、悲惨な状況をずっと笑いながら話しているところに、日本人の話し方とも似て、むしろリアルさを感じる。12歳以上は全員観ることを強制されたという、公開処刑の残酷さ。白いご飯は、誕生日にしか食べられなかった。海賊版の韓国ドラマは、カーテンをして、テレビにも幕をして観た。繁栄する韓国との距離が近いだけに、状況の対照が際立つ。数年前の洪水の後、彼女は、いま家族が母国で生きているかどうかも分からないという。
二本目は、韓国での暮らし。二人とも、親とともに、それぞれ中国を経て中継国を経て、韓国にいたる。中国を離れたきっかけは、北京オリンピックの際に強制送還の動きが高まったからだという。女性はインチョン空港に着いたとき、ここは天国だとも、未来にタイムスリップしたかとも思ったそうだ。男性がモンゴル発の韓国便に乗って、着陸のアナウンスを聞いて涙を流したときの様子は、感動的だ。もちろん、故郷を離れざるをえなかった状況として、単純な喜びでもない。
ところがこれでこの動画の話は終わらない。女性は北朝鮮の良さを聞かれて、星空のきれいさを語る。それから言う、「韓国の人は仕事ばかり。北朝鮮では、飢えているときさえ幸せだった」。
男性は、韓国では人々の繋がりがないと指摘する。物質主義的で競争に追われて、男性自身一度は自殺も試みたという。「インチョン空港についたときと、安全と学生証を得たとき以外、幸せな瞬間はなかった」。いま彼は、韓国の自殺を減らす活動をしたいと考えているという。
北朝鮮の悲惨な経済的・政治的状況、一方で、経済的な繁栄とは直結しない幸せのあり方、韓国と北朝鮮とで共通の言語を話し、また動画を見れば明らかに日本との繋がりが感じられるところで、この動画には強い印象を受けた。いまさらかもしれないが、金正日・金正恩体制を戯画化して済ませるというある種の思考停止をしているところ、「人々」目線で言えば、朝鮮半島の現状は日本を含む東アジア地域最大の問題であるということを、ふたりの若者の語りに気づかされた。
[J0092/200926]