Author: Ryosuke

矢澤高太郎『天皇陵』

中公選書、2012年。

第1章 天皇陵治定への疑問
第2章 巨大天皇陵は地震の巣
第3章 奇々怪々の陵墓参考地
第4章 謎が謎を呼ぶ大和最大の大王墳
第5章 蘇我氏が断行した方墳への大転換
第6章 王者が眠る八角杉の宇宙
第7章 天皇陵から落ちた高松塚古墳

主題は、古代の「天皇陵」。著者は読売新聞の文化部で活躍した記者であったとのこと、ジャーナリスティックな記述の上に、長年携わってきた古代史や考古学への思い入れがほとばしって、学術書とはまた違った読み物としてのおもしろさがある。一方では、埋葬者が誰かなど、わからないことだらけ、はっきりしないことだらけということがよく分かって、古代史の難しさも感じる。

私がはじめて聞いたのは、ウィリアム・ゴーランド(ガウランド)というイギリス人。大阪造幣寮のお雇い外国人だった彼は、16年間の余暇を古墳のフィールドワークを費やしたと。「ドルメン」という言い方を日本に持ちこんだ人のようだから、私が無知なだけできっとこの世界では知られているのだろう。著者は、モースと同等に評価されるべきだと述べている。お、ウィキペディアを覗くと、ストーンヘンジの保存活動や調査にも関わっていたもよう。おもしろそうな人だ。

[J0093/200929]

Asian Boss, 北朝鮮人は韓国ついてどう思っているの?[ママ]

お薦めに上がってなにげなく見はじめた YouTube 動画だが、「北朝鮮人は北朝鮮についてどう思っているの?」と、2本続けて食い入るように見てしまった。内容は、韓国に亡命してきた北朝鮮出身の若者2名に対するインタビュー動画。2016年から2017年にアップロードされたもの。こういう一般市民目線で、しかも若者から、北朝鮮の話をじっくり聞くことはなかったから。

一本目は、いかに北朝鮮の生活を描く。貧しく、自由のない生活。とくに1990年代には飢餓でたくさんの人が死んだこと。とくに女性は、悲惨な状況をずっと笑いながら話しているところに、日本人の話し方とも似て、むしろリアルさを感じる。12歳以上は全員観ることを強制されたという、公開処刑の残酷さ。白いご飯は、誕生日にしか食べられなかった。海賊版の韓国ドラマは、カーテンをして、テレビにも幕をして観た。繁栄する韓国との距離が近いだけに、状況の対照が際立つ。数年前の洪水の後、彼女は、いま家族が母国で生きているかどうかも分からないという。

二本目は、韓国での暮らし。二人とも、親とともに、それぞれ中国を経て中継国を経て、韓国にいたる。中国を離れたきっかけは、北京オリンピックの際に強制送還の動きが高まったからだという。女性はインチョン空港に着いたとき、ここは天国だとも、未来にタイムスリップしたかとも思ったそうだ。男性がモンゴル発の韓国便に乗って、着陸のアナウンスを聞いて涙を流したときの様子は、感動的だ。もちろん、故郷を離れざるをえなかった状況として、単純な喜びでもない。

ところがこれでこの動画の話は終わらない。女性は北朝鮮の良さを聞かれて、星空のきれいさを語る。それから言う、「韓国の人は仕事ばかり。北朝鮮では、飢えているときさえ幸せだった」。

男性は、韓国では人々の繋がりがないと指摘する。物質主義的で競争に追われて、男性自身一度は自殺も試みたという。「インチョン空港についたときと、安全と学生証を得たとき以外、幸せな瞬間はなかった」。いま彼は、韓国の自殺を減らす活動をしたいと考えているという。

北朝鮮の悲惨な経済的・政治的状況、一方で、経済的な繁栄とは直結しない幸せのあり方、韓国と北朝鮮とで共通の言語を話し、また動画を見れば明らかに日本との繋がりが感じられるところで、この動画には強い印象を受けた。いまさらかもしれないが、金正日・金正恩体制を戯画化して済ませるというある種の思考停止をしているところ、「人々」目線で言えば、朝鮮半島の現状は日本を含む東アジア地域最大の問題であるということを、ふたりの若者の語りに気づかされた。

[J0092/200926]

渡辺幸任『出羽三山信仰と月山筍』

 杏林堂漢方薬局、2013年。出羽三山のひとつ、月山で採れる最高級のネマガリタケ、月山筍。「出羽三山信仰と・・・」とあるが、ほとんど寄り道なしで、月山筍関連の記述で250頁。採集する人々の話や民俗、組合や栽培、それから遭難の話まで。
 たくさんの写真を掲載、一枚一枚は地味なのだが、なんだか実に良い。いかにも東北地方の空気を感じる、それをうまく言葉で表現できないのだが。

 筍を見れば採った場所が分かるそうな。時期には何十キロも採って、宿坊などに出すと高値がつくとのこと。読み進みながら、いかに山の恵みが大きいかを感じる。
 出羽三山には何度か訪れたことがあるけれども、たけのこを食べたかどうかは記憶がない。名取市の方々の三山講に混ぜていただいたときには、三山信仰のシステムがしっかりと組織され生きていることを感じた。月山筍もその一部を形づくっていることが、この書から分かる。

 強力は憧れる生業のひとつ。「上手く背負うには膨らみをできるだけ小さくして、その上に重たいものを乗せてバランスを取ることだよ。強力さんは背負うものを一目見ただけで荷造りが分かるんだ。どの荷物をどこに入れるかとか、とにかく朝の荷造りが大切だね。きちんと荷造りしないと途中で荷崩れするからね。金美さんは荷造りに対して気配りがぜんぜん違っていた。実にまめな人で、荷縄一本でもバランスを取って荷造りしていたよ。….. 立見さんは金美さんと対照的な人柄でおおざっぱというか、危うい格好で荷物を背負って上ってきた。それでも不完全な荷造りがいいと言う人もいるんだ。これは荷崩れすることに気遣って疲れを逃がすことにもなるんだ。段取り八分、仕事二分と言われる世界だよ。」(32-33)

[J0091/200924]