Author: Ryosuke

将基面貴巳『ヨーロッパ政治思想の誕生』

名古屋大学出版会、2013年。

序 章
第1章 12世紀人文主義と政治思想
     1 ジョン・ソールズベリーとスコラ学的人文主義
     2 ジョン・ソールズベリーの政治思想
第2章 教会法学と権力論の成長
     1 中世教会法学と政治思想
     2 教会内部の権力関係
     3 聖俗両権に関する教会法学理論
第3章 アリストテレス政治学の衝撃
     1 「アリストテレス革命」再検証
     2 アリストテレス『政治学』の翻訳・受容の思想史的意義
第4章 教会権力論の発展
     1 教会論における権力論
     2 教会と世俗の権力論
第5章 政治共同体論の自立
     1 ダンテ
     2 マルシリウス・パドゥア
第6章 教会論の転回
     1 ダンテとマルシリウスの教会論
     2 ウィリアム・オッカム
第7章 危機の教会論
     1 ジョン・ウィクリフ
     2 公会議主義
     3 「政治に関する学」の拡散
終 章 ヨーロッパ政治思想の誕生

中世ヨーロッパ思想というと、出てくる人名も語彙もなじみがなくて読みにくいが、この本は最大限リーダブルに書かれている。

13世紀後半から14世紀前半における「政治に関する学(scientia civilis)」の成立が焦点だが、「アリストテレス革命」の影響を相対化するともに、それ以前の「権力」論の展開に政治的思想成立の先行条件を認める。

いちばんおもしろく感じたのは、ウィリアム・オッカムの記述。「オッカムが政治思想的著作に手を染めたのは、教皇庁が異端に陥ったという認識を直接的契機とするもの」(189)であって、彼の神学や哲学の派生物ではないという。オッカムは、「異端」という概念の根本的な再定義を行い、教会権威の宣言によるとする従来の権威主義的な理解から、聖書の記述内容によって発見されるべきものへと異端の理解を根本的に転換させたのである(194-197)。

そこには人間に「神と自然によって与えれられた自由」として、信仰について正しく理解し判断する「自由」を認める立場が伴っていた。「個人の自律性に根拠を有する自由の重要性を理論的に弁証し強調したのは、おそらくオッカムをもって嚆矢とする。権力論の伝統は14世紀の初頭において、本格的な自由論を誕生させるに至ったのである」(208)。

この本の読みやすさのひとつは、世俗権力と教会権力の対立関係、人間の判断能力に対する信頼、個人的自由の賞揚など、中世にとどまらないヨーロッパ思想全体を貫くモチーフを念頭におきながら、その中世的展開を辿っているところだろう。上記のオッカム論など、その延長線上にルターやカントがいることについて、容易に想像がつくような記述になっている。

[J0086/200912]

西和夫『江戸建築と本途帳』

1974年、鹿島研究所出版会。黒い表紙のSD選書、それでこの「和」なタイトル、つい気になって手に取って眺めたが、期待に違わぬ楽しい内容。江戸の建築の話をするのに、相対死のエピソードからはじまる時点でもうおもしろいではないか。

I 江戸幕府の棟梁たち
II 本途と本途帳
 1 東照宮・鯛・障壁画
 2 江戸城再建と本途
 3 本途帳を訊ねて
III 本途の世界
 1 江戸城建物のランク付け
 2 京都御所の障壁画
IV 積算技術進展と本途の評価

本途帳とは、江戸時代の建築見積もり資料にあたり、当時の職人組織や物価、設計などの実態が分かる。もちろん、こうした本途帳が作られてきた背景そのものも重要な主題である。

読み方の多い本だが、とくに興味を持ったのは、障壁画の具体的な値段の付け方やランクづけ。狩野派は、建築組織に組み込まれていったがゆえに、芸術としての精彩を欠いていってしまったのだという。たしかに、家格や位、それから類型化された意匠ごとに細かく設定された報酬システムを眺めていると、さもあらんと納得させられる。それから、江戸時代のことではないけど、中世の仏師から競争見積がはじまったといった話なども。

[J0085/200908]

奥山倫明『制度としての宗教』

晃洋書房、2018年。

第I部 近代日本と「宗教」の位置
第1章 制度としての「宗教」
第2章 「政教分離」を再考する
第3章 宗教・教化・教育

第II部 制度のなかの神社と神道
第4章 「国家神道」をめぐる近年の議論
第5章 皇室祭祀と国家の聖地
第6章 神社行政と宗教行政
第7章 近代創建神社とその周辺

第III部 戦後の状況へ
第8章 岸本英夫の昭和20年
第9章 占領期までのキリスト教

各主題について従来の議論をまとめている。第四章、国家神道について、村上重良、井上寛司、畔上直樹、島薗進。第七章、近代創建神社、別格官幣社について、岡田米夫。生祠について、加藤玄智。第九章「占領期までのキリスト教」では、マッカーサーとキリスト教の関係を取り上げる。

[J0084/200908]