冨山房インターナショナル、2015年。著者には、漁関係にかぎっても『漁撈伝承』『カツオ漁』『追込漁』といった仕事がある。前半は「一人の船頭の半生から見た、カツオ一本釣り漁の書」で、後半は日本全国(さらにはソロモン)におよぶ著者の旅日記でもある。
Ⅰ 久礼への旅
Ⅱ 絵馬に描かれたカツオ漁
Ⅲ 安さんのカツオ漁―昭和のカツオ漁民俗誌
Ⅳ 「餌買日記」に描かれたカツオ漁
Ⅴ 震災年のカツオ漁
Ⅵ カツオ漁の風土と災害
Ⅶ カツオ漁の旅
柳田自身は『海上の海』の世界へ辿りついていたが、民俗学は稲作中心で進んできたとはよく言われること。やはりこの書で描かれている海を介した世界の広がりは、内陸からみる風景とは異なっている。
もうひとつは時代のこと。民俗学は死につつあると言われて久しく、ニューウェーブ民俗学といった花火が打ち上げられたりなどしてきたけど、これだけのフィールドワークがなお可能だということを本書は示している。花火を打ち上げる人に比べて、こちら側の人たちは黙々と仕事をするから目だたないのだけれども。
ここでたどっている形態のカツオ漁自体、時代で言えばそう「伝統的」なものではない。ところが、そこにまさに民俗的なものが流れこんでくるところがおもしろい。祈り、供養、それから著者のもうひとつの研究主題である、巫女や拝み屋。あるいは若者組や擬制家族のような組織との関係。こういったことを著者は、さりげなく、しかししっかりと書き記していく。
[J0083/200907]