副題「打ち砕かれた「西欧的近代化への野望」」、金利光訳、阪急コミュニケーションズ、2004年。原著 Al Qaeda And What It Means To Be Modern は、2003年。

第1章 アル・カーイダが打ち砕いたもの
第2章 近代化をめざした三つのプロジェクト
第3章 近代化論者の始祖
第4章 うたかたのグローバル自由市場
第5章 地政学と成長の限界
第6章 変容する戦争
第7章 パクス・アメリカーナ?
第8章 近代とは何かを事前に知ることはできない

2001年のアメリカ同時多発テロが衝撃を与えた当時、イギリスの思想史研究者による評論。西洋的進歩史観としての単線的近代化論が思い込みだと指摘するという内容、まあまあ、典型的といえば典型的。多元的近代化論に通じる見方がある。

「ソビエト共産主義と国家社会主義(ナチズム)とイスラム原理主義は、どれも西欧を標的とした攻撃だと説明されてきた。だが事実は違う。これら三つはすべて、近代ヨーロッパの理想を実現しようとする試みだったと理解されるべきだ」(19)。

「今でも冷戦は東西両陣営の対立と呼ばれることが多い。だがそこには、それに先立つ東方正教会(ロシア正教)と西欧カトリック教会との長い対立という重要な視点が抜け落ちている」(19)

「イスラム急進主義の知的ルーツはヨーロッパの反啓蒙主義にある」(44)。理性に対して意志を賛美する思想の流れ。「イスラム急進主義が理性を拒絶している事実が、彼らの運動の近代性を示している」(45)。

「論理実証主義の影響で、経済学は完全に没歴史的学問になった。その一方で、経済学はサン・シモンとコントに由来する歴史哲学を受け入れた。実証主義は、科学が歴史を動かす原動力だと言う。新技術は効率の劣る生産様式を用済みにしながら新たな社会生活を創り出していく。歴史は一貫してこのプロセスの連続であり、ただ一つの経済システムによって統合された世界が終着点になる。科学的知識が最終的にもたらすのは、世俗的で、「現世」の道徳原理が支配する普遍的文明なのだと」(68)

「グローバル自由市場は、実証主義的経済学とアメリカの普遍的使命感をふた親にして生まれ落ちた。実証主義が自由市場擁護論と結び付いたのは、せいぜい二〇世紀最後の数十年のことにすぎない」(78)

「ある側面から見れば、グローバル自由市場は自由市場を擁護しようとするアメリカの意思に支えられていた。また別の側面から見れば、それはアメリカの資本主義を普遍的モデルと認定し続ける外国投資家を必要とした。これらの条件が雲散し、グローバル自由市場の解体が始まったのだ」(90)

[J0421/231103]