Author: Ryosuke

pha 『どこでもいいからどこかへ行きたい』

幻冬舎文庫、2020年、原著原題は『ひきこもらない』で、2017年刊。

1 移動時間が好きだ
2 チェーン店があれば生きていける
3 できるだけ多くの場所に住みたい

昔はよくエッセイを読んだけど、最近はぜんぜんで、でもこの本はひさびさにしっくりきた。たぶんだけども、エッセイと言えども文章ごとにバラバラでは読めないんで、あるテーマなり思想なり、あるいは文体なりがベースにないとだめなんだろう。筆者曰く、この本のテーマは「何もなさそうな場所でも面白いことはいくらでも見つけられる」ということと、「同じ場所にいるとすぐに飽きてくるから新しい場所に移動しつづけたい」とのこと。サウナだ高速バスだと、僕の趣味とはちがうんだけど、なにかその気分に共感。

少し調べてみたら、phaさんはニートということで有名な方のよう。この種の人の発言にもいろいろあるけど、phaさんが読みやすいのは、社会生活にうまくフィットできないと言いつつも、ふつう一般の生活をディスったり攻撃したりする要素がないところ。自己啓発風にならないのも、そのへんのバランスから来るもので、それがエッセイという形式によく合っている。

[J0208/211024]

将基面貴巳『従順さのどこがいけないのか』

ちくまプリマー新書、2021年.

第1章 人はなぜ服従しがちなのか
第2章 忠誠心は美徳か
第3章 本当に「しかたがない」のか
第4章 私たちは何に従うべきか
第5章 どうすれば服従しないでいられるか
第6章 不服従の覚悟とは何か

将基面さんは『反「暴君」の思想史』(平凡社新書、2002年)も良かったが、本書は、中高生も意識しながら不服従や抵抗の重要さを説く。

ストレートなメッセージをきちんとぶつけて、偉い仕事だ。ただ、僕が同時に気になってしまうのは、この本を読んだ人たちの反応。僕が今いる場所の問題もあるが、思考停止の迎合主義に浸りきっているこの日本の状況で、たとえば「本当に暴力は「絶対に」いけないことなのでしょうか?」という本書の問いかけがどれだけ、どれくらいの人に響くか。どうにも否定的な想像しかできなくて辛い。そういうしかたで、「しかたない」の泥沼に足をとられかかっているのかもしれない。

[J0207/211019]

栗原康『村に火をつけ、白痴になれ』

岩波現代文庫、2020年、原著2016年。

第1章 貧乏に徹し、わがままに生きろ
第2章 夜逃げの哲学
第3章 ひとのセックスを笑うな
第4章 ひとつになっても、ひとつになれないよ
第5章 無政府は事実だ

伊藤野枝の伝記、いやいやたしかにすごいインパクトだ。野枝がとにかく凄いわけだが、著者が頻繁に野枝を出し抜くというか、前に出て語り出す。そうでもしないと、野枝の凄さが伝わらないからでもある。

ど根性、と著者も繰り返しているが、野枝の肝の据わり方が凄い。こういう人が現れるんだな。その根幹には「いざとなったら、なんとでもなる」という感覚があって、たしかにその感覚が奪われているところに資本制的な奴隷的状況が発生する。また、セックスや家庭の問題が、非アナーキーな国家体制の根幹にあることを、この書の野枝は理屈としてだけではなく教えてくれる。後年、「個人的なことは政治的なこと」というスローガンにまとめられることを、もっと生々しい迫力をこめて伝えてくれるのだ。

どうだろう、若い頃にこの書を読んだら、もっと大きな衝撃を受けただろうか。でも、野枝の奔放すぎる生き方に通っている筋道までは理解できなかったかもしれない。結婚における同化を否定しているように、情愛を美化するだけのロマン主義の話なのではないのだ。

[J0206/211006]