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内田正治『タクシードライバーぐるぐる日記』

三五館シンシャ、2021年。交通誘導員、派遣添乗員、メーター検診員等々の、ふだんは目立たない職業人に焦点を当てたシリーズ中の一冊。

第1章 汗と、涙と、罵声の日々
第2章 ドライバーの事情、お客の事情
第3章 警察なんて大嫌い
第4章 さよならタクシードライバー

副題は「朝7時から都内を周回中、営収5万円まで帰庫できません」とある。この副題からして、よくある誇張に満ちた「残酷物語」かと思いきや、さにあらず。むしろ、どちらかといえば淡々と、もう少し正確にいえば実直にタクシー運転手を務めた著者の日常的エピソードの数々が綴られていて、好感。『孤独のグルメ』でいうところの「こういうのでいいんだよ」というやつ(かな?)。へええ、個人タクシーって、運転手界のエリートなのか。

>描かれている世界はまったくちがうが、大正時代のタクシードライバーの伝記としては、高橋佐太郎『草分け運転手』(1958年)がある。

[J0310/221114]

岡田温司『最後の審判』

副題「終末思想で読み解くキリスト教」、中公新書、2022年。

第1章 あの世の地勢図
第2章 裁きと正義
第3章 罪と罰
第4章 復活

著者の博学がうかがいしれる一冊で、たしかにこういう本が存在することに世間的な意味はあるだろう。ただ個人的に評価をするなら、どこまでが著者独自の知見かも分からず、自身の主張もあいまいなまま、うんちくをずらっと並べたこの種の本に対する評価は、辛めになる。

致命的な欠点は、さまざまな絵画や彫刻を、著者のうんちくに対する一種の「挿絵」としか扱っていないこと。もし絵画や彫刻を中心に扱うのであれば、あれこれの宗教思想がなぜ絵画や彫刻といった特定の形態をとって表現されることになったのかという問題に対する考察がともなっていなければならない。たとえば、イスラーム圏で具体的な図像化が避けられることも、宗教思想の表現であるはずである。プロテスタントをはじめ、キリスト教にも同様の重要な問題圏がある。

同じ中公新書の類書なら、指昭博『キリスト教と死』の方が圧倒的に価値が高い。

[J0309/221114]

立花隆『青春漂流』

講談社文庫、1988年、原著1985年。

稲本裕(オーク・ヴィレッジ塗師32歳)
古川四郎(手づくりナイフ職人33歳)
村崎太郎(猿まわし調教師22歳)
森安常義(精肉職人33歳)
宮崎学(動物カメラマン34歳)
長沢義明(フレーム・ビルダー36歳)
松原英俊(鷹匠33歳)
田崎真也(ソムリエ25歳)
斎須政雄(コック34歳)
冨田潤(染織家34歳)
吉野金次(レコーディング・ミキサー36歳)

ひさびさに再読。いい本だね。前に読んだときは、登場人物より年下のときだったろうと思うけど、今回ははるかに年上の立場から。あまりよくないことだけど、やはり年齢でものを考えてしまうことは多い。こういった記述についても、10ちがった視線で読むことになる。

11人の青春時代を扱って、もちろんというか、会社勤めの人はいない。自然相手の仕事が4人。11人全員が職人的な職業。海外修行をした人は5人。立花さんは亡くなってしまったが、「30年後の青春漂流」も読んでみたかった。

[J0308/221113]