河出文庫、2015年、原著2013年。

小説として優れているかどうかはわからないが、絶妙なバランスの上に成立している傑作。個々の部分にも、印象に残る箇所がたくさん。いとうせいこう作品では、わりと最近『「国境なき医師団」を見に行く』というドキュメンタリーを手に取ったのだが、これがどういうわけかまったく感覚が合わず、いまだに読み通せていない。それなのに、小説ならば読めるのだね。

凄いなと思うのは、死者や死者の世界をめぐる著者の逡巡が、そのままこの小説の世界となっているところ。明確な「あの世」や死生観の設定はなく、次第に種明かしされていく部分はあるにしても、著者とともに主人公もまた、世界のありように対して最終的な確信を持っている訳ではない。どこかから声だけが聞こえてくることだけが、はっきりしているのだ。こうした死生の捉え方こそ、現代的なリアルだと言うべきかもしれない。

[J0387/230806]