岡田晴恵・田代眞人『感染症と闘う』(岩波新書、2003年)。15年以上前の情報であることには注意。
 序 新型インフルエンザとSARSの衝撃
 1 インフルエンザと「かぜ」とはちがう
 2 新型インフルエンザの脅威
 3 インフルエンザワクチン
 4 SARSの流行と対応
 5 成人麻疹
 6 風疹と先天性風疹症候群 

・雑多な原因や症状からなる「かぜ」と、より重篤になりやすく危険なインフルエンザ(流行性感冒)は区別される必要がある(6-7)。アメリカでは、第一次大戦のときの経験から、インフルエンザを敵視する傾向があり、イギリスやアメリカではかぜとインフルエンザを cold と flu とより明確に区別している(7)。

・冬におけるインフルエンザの流行には湿度の低さが関係していると考えられているが、亜熱帯地方や熱帯地方の流行パターンはこれに当てはまらず、なお謎が残されている(12-13)。

・細菌は二重鎖DNAを備えた独立した生物であるが、ウイルスはDNAかRNAのどちらかしか持っておらず、自身でタンパクを合成する機能もない(16)。この性質から突然変異が頻繁に生じる(20)。

・新型インフルエンザが発生しやすいのは、トリ、ブタ、ヒトが共存する環境で、過去の新型インフルエンザのほとんどが中国南部で登場している(48)。1957年のAアジア型、1968年のA香港型がそれである(52-53)。

・インフルエンザにかかると、第一に高熱が出るが、これは発熱によって高温に弱いウイルスの増殖を抑えようとする生体防御反応のひとつである。39度の熱で、インフルエンザウイルスの増殖は37度のときの10分の1となる(110)。高熱は体力を消耗しさまざまな障害を起こすが、宿主側の抵抗手段でもあるので、安易に解毒剤や抗炎症剤を使用すればいいともかぎらない(111)。

・インフルエンザワクチンの効果は100%のものではなく、ワクチンを接種した集団と接種しない集団を比べて「どの程度」危険を減らせるかという相対危険で評価している。このことがワクチンの効果に対する理解の壁となっている(129)。また、インフルエンザと「かぜ」が区別されていないことも、ワクチンの効果に対する不信感につながっている(129)。ワクチン接種によってごく一部に副作用や事故が生じることは否めない。ただ、予防接種法では、健康被害者をなるべく救済するという方針から「ワクチン接種との因果関係が否定できbない」場合には、広く補償の対象とされているため、とくに高齢者においてワクチンとは無関係な心筋梗塞などの死亡例も、補償の対象となり副作用事例の数字に加えられている。こうした行政判断とワクチンの科学的評価とのちがいが、ワクチン政策に対する誤解を生んでいる側面もある(134-135)。

・2003年、世界各地に広がったSARS(重症急性呼吸器症候群)は、香港九龍地区のメトロポールホテルのひとりの宿泊客から感染伝播することになった。この人は、広東省広州の病院でSARS患者の治療にあたっていた64歳の医師であった(156)。HIVの場合、その病因の同定には2年を費やしたが、SARSは世界的な研究組織が立ち上がって一ヶ月でそれが新型コロナウィルスであることが突き止められた(174)。

・麻疹(はしか)は過去の病気ではなく、日本は麻疹の輸出国としてしばしば国際的に非難されている。麻疹の免疫は終生のものではない。麻疹は強い免疫抑制を生じるため、二次感染による合併症を生じる。成人の場合免疫抑制は回復後も長く続き、風邪をひきやすくなったり、花粉症が治ったりすることがある(226-227)。(ここ数年よく言われているが)妊婦がかかると先天性風疹症候群を引き起こす風疹も問題であり、風疹ワクチンは安全性が高いこともあって、積極的なワクチン接種が推薦される。

[J0020/200330]