Author: Ryosuke

草間秀三郎『増補版 B29墜落』

副題「米兵を救った日本人」、論創社。1999年の本に補遺を付して2001年に出版。

序章 いまなぜB29なのか
第1章 背景―米国における対日イメージの変遷
第2章 背景―捕虜の取扱いに見る日本の軍国化
第3章 東京大空襲とB29の墜落
第4章 墜落地周辺の地理・教育・伝統文化
第5章 B29墜落に見る「菊と刀」
第6章 搭乗員遺族の墜落調査への反響
第7章 帝都防衛の迎撃と墜落地住民の証言
終章 真の国際化と国際理解を願って
補遺 見送られた本土決戦―沖縄地上戦の衝撃

東京大空襲のときに旧板橋村(筑波郡伊奈町)に墜落したB29。12人のうち9名が死亡。生存した3名について、村の消防団副団長の方が、乱暴しようとする村人をとどめて保護し、憲兵に引き渡したとの話。その後処刑されたようで、けして美談という感じでもない。

著者は国際関係学の研究者らしい。この調査に費やした労力には敬意を表したいが、話題がとっちらかって研究者の著作とは思えない構成、なんとも読みにくいのが残念。
[J0576/250405]

近田真美子『精神医療の専門性』

副題「「治す」とは異なるいくつかの試み」、医学書院、2024年。

序章 日本の精神医療の現状
第1章 支配から信頼へ──精神症状をその人の本質として捉える
第2章 薬より、お札やったんや!──専門職としてではなく、人として関係性をつくる
第3章 「治す」ではなく「暮らす」を目指して──精神疾患を病ではなく、その人の苦悩の一形態と捉える
第4章 意味のある支援──主体化を目指し、利用者に責任を返しながら伴走する
第5章 医療から社会生活へのシフトチェンジ──保護的な支援から、いつか到来する「自己実現」に向けた支援へ
第6章 精神医療の専門性をつくり変える
補章 ACTとは何か

医学モデルに則った精神医学とは別様のありかたをさぐる。博士論文がもとになった本との話、たしかに、学位論文らしい丁寧さのある一書。ひとつ、マジレスなコメントをしておくと、ここで示されている実践像を、ACTという括りに――もっともいえば、括りにのみ――結びつける必然性があるかどうか、という問題は残る。示されている実践像については、一定の理解が得られると想定される。

本書で紹介されている高木俊介氏の発想がおもしろかった。「薬が必要」というアプローチ法ではなく、「薬が自然」というアプローチ方を、というところ。薬を処方する/処方しない、の二分法とはまた異なる発想である点。その含意はもう少し深く考えて、言語化を試みる価値がある。

[J0575/250325]

毛利嘉孝『増補ポピュラー音楽と資本主義』

2012年、せりか書房。

1 ポピュラー音楽と資本主義
2 ロックの時代の終焉とポピュラー音楽の産業化
3 ポップの戦術―ポストモダンの時代のポピュラー音楽
4 人種と音楽と資本主義
5 「Jポップ」の時代
6 「ポスト・Jポップ」の風景
7 ムシカ・プラクティカ―実践する音楽

大学での講義テキストとして書かれたものというが、たしかにバランスがよい良書。バランスがよいというのは、音楽本にありがちな、自分自身の趣味にはしるようなこともなく、かといって衒学的でもなくて、まさにテキストとしての役割を果たしている。

前半部分は他の書物でも一応ありそうな概説だが、とくにJポップのところは概観としての精度が高く、あまりほかになさそうに思う。初版が2007年で、この増補版が2012年というので、この間の変化の激しさに驚いた旨が書かれているが、さらにそこから15年、変化は加速していて、もうちょっとしたら1990~2000年頃の音楽シーンのことをリアルに想像ができなくなりそうだ。そう考えると、本書の記述の価値はこれからさらに高くなるかもしれない。求められる音楽批評のスタイルや対象自体もまた変わってしまうだろうけれども。

メモ:黒人文化を語る、ポール・ギルロイ『ブラック・アトランティック』の反-反-本質主義。

[J0574/250322]