松江を含む出雲地方の歴史の深さを示すひとつの例。島根県教育会編『島根県口碑伝説集』(島根県教育会、1937年)から、本ではたった三行ほどの「鴬を飼はぬ」というお話。

―― 八束郡法吉村春日の鶯谷は太古宇武賀比売命が下つて鴬となられたと所と伝へられて居る。この故事に依つて法吉村では鴬を飼養しない。又、捕獲しない。現今鶯谷には大きな古墳がある。命の塚なりと伝へられて居る。又字春日では胡瓜の切口が祇園神社の神紋に似て居るとて憚りて之を食はず、又栽培しない。

地元の口碑を集めた『島根県口碑伝説集』、松江城下などは幽霊話など近世風の説話が多いのだが、神が鴬になるという古代的神話がごくさりげなく、生きた口碑として現れるのが出雲風。宇武賀比売は『古事記』にも現れ、貝の神格化と解釈されているらしい。宇武賀比売が法吉の地でウグイスになったという話は『出雲国風土記』に出てくる。上記説話にも言及されているように、その神を祀った旧法吉神社社地(現在は公園として整備)には古墳があり、6世紀前半の方墳と推定されている(発掘調査書、松江市教育委員会『伝宇牟賀比売命御陵古墳』1993年)。小さな神社の境内に古墳があるのも、「島根・出雲あるある」。

今はこのあたり、松江市中心部にほど近い住宅地として「うぐいす台団地」を名のっているけど、その由来をたどれば、「ちょっと素敵だからうぐいす」程度の話じゃないのですよ。

[J0383/230717]