朝日カルチャーブック54、大阪書籍、1985年。

ユダヤ思想の源流(荒井章三)
 序 ユダヤ教とは
 I ユダヤ教の資料
 II イスラエルの神
 III イスラエルの民
 IV 人間について
 V 預言者について
 VI メシア待望のイエスの運動
ユダヤ精神の秘義(森田雄三郎)
 第一部 一世紀以後のユダヤ人の歴史
  序 一世紀以後のユダヤ人の人口動態
  I ローマ時代のユダヤ人
  II イスラム支配下の時代
  III ヨーロッパにとどまったユダヤ人
  IV ユダヤ啓蒙主義と経験主義
  V シオニズムの形成と展開
 第二部 ユダヤ人の精神性
  I ユダヤ人はなぜ迫害されたか
  II 将来へのユダヤ的超越

ちょっと古い本だけど、類書がありそうでない、ちょうどいいユダヤ教入門書。

へえ、と思ったのは、十字軍の位置づけなど。「十字軍は11世紀から13世紀にかけて西欧キリスト教徒が、最初は聖地パレスチナの回復を目的に起こした異教徒討伐の軍事行動であったが、この場合の異教徒とは、実際にはイスラムのみならず、ユダヤ教徒も含まれていた。第一回十字軍は本国を出発した直後から、すでにヨーロッパの道筋において、ユダヤ人居住地にさしかかるや略奪と暴行をほしいままにしたし、聖地エルサレムの占領に成功したときも、エルサレム内外のユダヤ人たちは、イスラム教徒と共に略奪と暴行を受け、会堂に押し込まれて焼き殺された。したがって、十字軍はユダヤ人にとって、キリスト教に名を借りた軍事的侵略にすぎないものとの評価が今日まで行われている。この十字軍の出来事は、以後の中世ヨーロッパのユダヤ人抑圧の引き金になったと言えよう。」(214)

「キリスト教社会の歴史では、ヨーロッパの近世はルネサンスと宗教改革に始まるとする説が有力である。しかし、ユダヤ史における近世の到来は、普通、もっと遅い18世紀の啓蒙主義の時代に置かれる。米国史がアメリカ・インディアンや黒人の手で書かれるとき、内容も時代区分も大きく違ってくるのとまったく同様である。」(219)

1870年代前後から台頭し、それへの対抗としてシオニズム結成のきっかけともなった、アンティ・セミティズム。「アンティ・セミティズムの特徴は、これまでの反ユダヤ主義の偏見以上のものを含んでいた。それまでの西欧的偏見では、ユダヤ人は西欧社会に同化して、ユダヤ人たる民族的特徴を失ってしまえば、それ以上は要求されなかった。ゲットーのユダヤ人はキリスト教に改宗すれば、ゲットーの外に出ることができ、それで問題は一応解決した。しかし、新たに台頭したアンティ・セミティズムの主張では、ユダヤ人がキリスト教に改宗しても、西欧的国家と西欧的文化の中に同化しても、問題の解決にはならないとされる。つまり、ユダヤ人としての生物的人種的存在そのものが存在しなければ、問題解決にならないとされたのである。」(246)

本書170-171ページ。中程潰れている部分は、「近世近代」、「ゲットー(イタリア、ドイツ)」、「『東欧』正統主義(自主)」とある。

[J0424/231115]