PHP新書、2011年刊。

1.鳥インフルエンザはなぜ蔓延しているのか
2.ゼロからわかるインフルエンザウイルス
3.新型インフルエンザウイルスにどう対処するのか?
4.病原性別インフルエンザの傾向と対策
5.感染予防と自宅療養の準備
6.歴史から見たインフルエンザウイルス

――「鳥インフルエンザは、それが発生している地域では、鶏肉や卵からも感染しうる。すべての部分が70℃以上に十分加熱しているか、確認することが重要である」(p.34)

――免疫には自然免疫と獲得免疫がある。

――「鳥インフルエンザは鳥のウイルスであり、高い種の壁があるために、鳥とは種の異なる人には感染しないと、以前は考えられていた。しかし、1997年、香港でH5N1型強毒型鳥インフルエンザが人も感染し、18人中6人が思慕するという衝撃的な事例が起きた。」「香港政府は、苦渋の決断で人へのウイルスの供給源である家禽すべての殺処分に踏み切り、鳥ウイルスを香港から一掃したのであった。実に年末の3日間で140万羽の家禽を殺処分して、これ以上、人へ感染することがないようにウイルスの供給源を断ったのである」(p.100)

――なお、本書の主題である強毒型インフルエンザは、上気道に取りつく弱毒型のインフルエンザとちがい、全身の細胞に感染する。これまで流行してきたインフルエンザはすべて弱毒型。

――「H5N1型鳥インフルエンザの人感染例では、患者の95%以上が40歳以下であり、乳幼児から特に10代、20代での重症例や死亡例が多く、この10代、20代の若年成人層を中心とした世代の致死率は7割を超えて高いことが特徴である。…若年層の世代は免疫応答が活発で、サイトカインストームが起こりやすいためである」(p.125)

――ここ、一番興味深かった箇所。「インフルエンザウイルスは高頻度で遺伝子の変異を起こしやすいため、もし鳥の体内で遺伝子の突然変異を起こして強毒型の致死率の高いウイルスが発生しても、その個体を短期間で殺してしまい、野外ではその強毒のウイルスは淘汰されて消えていく。しかし、ここ数十年、鶏肉や鶏卵が安価で飼育が容易な貴重なタンパク源の食糧であることから、数万から数十万羽の単位で、多数の鶏を狭い鶏舎で密集して飼育する方式が普及し、大規模な鶏舎飼育設備が世界中で作られてきた。・・・・・・このような環境に弱毒型のH5亜型、またはH7亜型のウイルスが侵入すると、突然変異が起こる回数が増え、強毒型ウイルスへの変化の機会も増える」(pp.133-134)

――「何回も繰り返すが、新型インフルエンザ発生時には、医療現場の混乱や社会の混乱が想定されることである」(p.164)

――「スペイン風邪の大流行のあとには、脳炎(嗜眠性脳炎、エコノモ脳炎ともよばれる)が多発した。ウイルスそのものは脳に感染していないので、サイトカインストームによるインフルエンザ脳症の後遺症ではないかと想像されるが、発症機序についてはいまだ謎である。さらにスペイン風邪の10~20年後には、パーキンソン病が多発している」(p.229)

・・・・・・という具体で、インフルエンザとコロナウイルスのちがいはあるが、こうした感染症が起こりうること、それが社会混乱や医療破綻を生むことは、感染症の専門家には予想できたことであったということ。もしそうだとすれば、強毒型インフルエンザが流行する可能性がある――その直接的な危険性は今回のコロナでも比べものにならない――という予測も、現実味のあるものとして真剣に考えねばならないのかもしれない。今回の新型コロナの流行が、どこまでそうした感染症対策向上のきっかけとなりうるかどうか。

[J0027/200417]