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北村曉夫『ナポリのマラドーナ』

山川出版社、2005年。

1.イタリア対アルゼンチン
2.言説としての南イタリア
3.イタリアの北と南
4.アルゼンチンのイタリア移民
5.再び、イタリア対アルゼンチン

おもしろい。1990年イタリアで開催されたサッカーW杯のイタリア対アルゼンチンの対決、つまりシチリア出身のスキラッチと、セリエAナポリに所属していたマラドーナの激突でもあった試合を話の端緒にして、イタリア史における南北問題――アルゼンチンへの移民史も含めて――を辿る。

イタリアの「南部問題」は、国家としての統一のあり方がほかの国とは異なるイタリア特殊の事情であるとともに、歴史上よくある地域への「レッテル貼り」の一事例でもある。しかしここでも怪物チェーザレ・ロンブローゾが何度も出てきて、アルゼンチンのイタリア移民差別にまで影響を与えていることを知る。もちろん彼自身、イタリアの人だったわけだが。ユダヤ系だったのだろうか?ちょっと分からないが。

つい最近、亡くなってしまったマラドーナ。「いささか知的能力を欠いた人物というイメージが広まっているかもしれない。しかし、彼の言説を彼がそのときどきにおかれた状況に照らして再読するならば、それがきわめて論理的であり、核心をついたものであることに驚かされるであろう」(180頁)。「マラドーナはきわめて理知的であり、自分の周囲の状況がよく見えている」(181頁)。かつ、彼はトリックスター的な役回りを引き受けていたという。「彼がプレーをするだけで、彼の意志とはまったく別に、社会の矛盾や問題点があらわになってしまうのである」(181頁)。その謎ときは、本書本文で。

[J0146/210412]

ブレイディみかこ『THIS IS JAPAN』

新潮文庫、2020年、原著は2016年。

第1章 列島の労働者たちよ、目覚めよ
第2章 経済にデモクラシーを
第3章 保育園から反緊縮運動をはじめよう
第4章 大空に浮かぶクラウド、地にしなるグラスルーツ
第5章 貧困の時代とバケツの蓋
エピローグ カトウさんの話

ブレイディさんの本は何冊目か。キャバクラや保育園、ホームレスといった問題を扱って、雰囲気だけでものを言うのではなく現地取材もしている、しっかりした日本社会のルポルタージュだったのに良い意味でびっくり。イギリス在住歴が長い著者、たんにいわゆる出羽守にならないのは、その経験がイギリスでも労働者階級のそれだから。

ひとつのポイントは、日本の左翼や社会運動が理念に走りすぎて、貧困を経済問題として捉えてきていないという認識。一億層中流が貧困その他の問題を「見えない」ようにしているだとか、日本社会の人権意識が義務前提の考え方でしかないとか、この辺は本当に「あるある」だ。

広い層に、学生にもぜひぜひとお勧めしたい一冊。最後のカトウさんの話だけもうひとつピンと来なかったが、まあそれはよし。

[J0145/210325]

工藤庸子『宗教 vs. 国家』

講談社現代新書、2007年。

第1章 ヴィクトル・ユゴーを読みながら
第2章 制度と信仰
第3章 「共和政」を体現した男
第4章 カトリック教会は共和国の敵か

フランスのライシテ原理の歴史を紹介。あとがきに、谷川稔『十字架と三色旗』くらいで、「歴史学の知見をふまえた平明なライシテの解説書はほとんど見当たらない」と執筆の動機が書かれているが、難しすぎず丸めすぎず、その目的がよく達成されていてありがたい一冊。最近では伊達聖伸さんなどがライシテに関する概説書を出版されて選択肢が増えてきているが、ユゴーの小説の読み解きにせよ、ジュール・フェリーとその背景の紹介にせよ、親切な本書の記述の価値はなお高い。

既存の概説書を参照しながら書かれているが、先行研究の扱い方にもフェアさを感じる。・・・・・・と、なんだか新鮮な感想を書いてきたが、半分以上読んでから以前に読んだ本であることに気づき、また自分自身に「いやいや・・・・・・」となるのだった。このブログ名「本の虫」は、食べたら消化排泄して残らないという意味でもある。

[J0144/210321]