Author: Ryosuke

高橋陽一『くわしすぎる教育勅語』

太郎次郎社エディタス、2018年。

第一部 [精読] 一字一句をつまびらかに
第二部 [始末] 来しかたとゆく末
 第1節 起草者それぞれの思惑
 第2節 徳目はどこから来たか
 第3節 「君主の著作」の法的地位
 第4節 モノとしての教育勅語──原本と謄本
 第5節 物神となった謄本と「御真影」──学校儀式と不敬事件
 第6節 教育勅語と学問の自由
 第7節 揺れる教育勅語解釈
 第8節 失効後に残ったもの
第三部 [考究] これまでにわかっていること
文献案内
資料(抄録)

なるほど、平明でていねいな説明に、逆に著者の執念がうかがわれる一冊。なるべく多くの人に手に取ってもらいたいという意志を感じる。

商売柄、教育勅語が、明治国家のあれこれの意図のもとに、中国儒教や近世水戸学などからパーツを集めて創った近代的な構築物だということは共通認識としてある。この点を説明する一般書としては、本書が決定版とも言える。

個人的に、むしろ分からないのは、いまの教育の文脈で教育勅語を持ち出す人たちの心理とか認識。天皇を崇拝する人がいること自体は、そういう人もいるだろうと理解できなくもないが、天皇の崇敬と教育勅語を直結させる発想の人がよく分からない。その種の天皇崇敬って、どこまでいっても明治的=近代的なものでなくちゃならないんだろうね。『梁塵秘抄』をあがめるとか、ないのかな。

[J0200/210918]

明石順平『国家の統計破壊』

インターナショナル新書、2019年。

第1章 「賃金21年ぶりの伸び率」という大ウソ
第2章 隠れた「かさ上げ」
第3章 隠される真の実質賃金伸び率
第4章 「かさ上げ」の真の原因
第5章 誰が数字をいじらせた
第6章 「ソノタノミクス」でGDPかさ上げ
第7章 安倍総理の自慢を徹底的に論破する
第8章 どうしてこんなにやりたい放題になるのか

本当は、この著者の解釈自体もよく検討しなければいけないが、ここでは基本的に正しいものと考えて・・・・・・。こういう統計の再検証という作業はそう楽しいものではないが、とても大切なことであって、こういう試みがあることに感謝。

この本の焦点はふたつあって、ひとつは統計の不正操作を指摘すること。もうひとつは「賃金が伸びないのに物価だけを急上昇させた」アベノミクスの失敗を批判すること。研究者的な目線で言うと、両者を同時にやってしまうと話がこんがらかりそうではある。

この本でも書かれているが、政府の答弁が質問にまともに答えない、クリンチ的なものだというのは、菅首相のときになっても酷かった。アベノミクスの帰結以上に暗澹とした気持ちにさせられるのは、統計不正やこの種の答弁の、事実軽視・論理軽視・対話軽視の空気。統計をたんに無視するというのではなく、適当にいじって利用するというところが本当に悪質で、それを許す社会全体の問題でもある。

[J0199/210917]

金澤周作『チャリティの帝国』

岩波新書、2021年。

第一章 世界史における他者救済――イギリスの個性を問い直す
第二章 近現代チャリティの構造――歴史的に考えるための見取り図
第三章 自由主義社会の明暗――長い一八世紀からヴィクトリア時代へ
第四章 慈悲深き帝国――帝国主義と国際主義
第五章 戦争と福祉のヤヌス――二〇世紀から現在へ

イギリスの近現代史を覗いても、また街々を歩いてみても感じられるのは、この国におけるチャリティやフィランスロピー(慈善事業)の存在感の大きさ。どの街でも、チャリティ・ショップが日本のコンビニくらいあって、しかも目抜き通りにだったり、どうやって経営が成り立っているのかいつも不思議。

金澤さんは『チャリティとイギリス近代』からこの主題を追究していて、そちらも大いに啓発的だった。この最新刊には「戦争と福祉のヤヌス」という章があるけれども、いわばこの書全体の主題が「帝国と慈善のヤヌス」。歴史家らしく、しっかり慈善事業の「裏の顔」を暴いている体だけど、やっぱり最後の最後にはチャリティの可能性に惹かれているようすで、僕もそこはそう、チャリティ志向はイギリス社会最善の部分のひとつと感じる。

これも僕の積年の疑問として、チャリティ帝国のイギリスが、なぜか戦後には福祉国家としてNHSを産み育てたというところ。著者の解釈は、戦後40年はチャリティが低調な時代で、また新自由主義時代に入ってその熱が高まってきたというもの。それはそうなんだろうけど、まだイギリス社会の福祉国家的側面の謎は残っている。

最近読んだ本のなかでは、武田尚子『チョコレートの世界史』(中公新書、2010年)が、イギリスの覇権と慈善事業というキーワードで共通していて、この書と並べて読んでも良さそうだ。

[J0198/210915]