Category: Japanese Articles

榎本洋介『島義勇』

佐賀県立佐賀城本丸歴史館、2011年。

第1章 島義勇の生涯
第2章 幕末の蝦夷地探検
第3章 開拓使設置の経緯と人事
第4章 島判官の石狩赴任
第5章 島判官による札幌本府建設

未開の地であった札幌を、将来「世界中之大名都」になる土地だと、石狩本府に選んだ島義勇。その功を称えて、北海道神宮と札幌市役所に銅像が建っている開拓判官、島義勇。

島の先見の明を証するように、札幌の人口は大正9年に小樽を、昭和15年に函館を抜いて北海道第一となり、現在では北海道の人口の三分の一を擁するようになっている。小樽も函館も平地の少ない手狭な街であって、今考えると、都市域拡大には限界があった。当初島は、札幌に対する手宮(小樽)を東京に対する横浜に見立てていたようだが、日本海海運はその後衰退し、石炭産業の斜陽もあって、千歳が北海道の入り口の役割を担うにいたっている。昨年、北広島にエスコンフィールドができたが、札幌都市圏の拡張は、南の方向へと向かっているようだ。

札幌開拓の功のほかに、島義勇の話題で気になるのは、江藤新平と合流しての佐賀の乱と、梟首という最期。この冊子ではこの出来事にはあまり触れていないが、また関連書も読んでみたい。

[J0453/240225]

架神恭介『「バカダークファンタジー」としての聖書入門』

ひたすら聖書の記述の矛盾や非道にツッコミを入れていくという1冊で、これは逆にすごい情熱だ。別に嘲笑することが目的というわけではなく、聖書とは「徹頭徹尾、人間が書いた書物」であり、「人間の醜さがぎっちり詰まってる」として、「人間というものがリアルに現れた書」「時代を超えて読み継がれるだけの迫力を持った書物」と捉えている。イースト・プレス、2015年。

はじめに 
本書を読む上でのお約束 
イスラエルのおおまかな流れ 

Ⅰ 旧約聖書
1.律法
 創世記──天地創造からすでにツッコミ所満載
 出エジプト記──中間管理職モーセの苦悩 
 レビ記──ヤハウェに仕えるためのルール集 
 民数記──邪神覚醒! 民は虫ケラのように殺される 
 コラム ヤハウェの統治下が劣悪な7つの理由 
 申命記──ヤハウェに仕えるためのルール集・改訂版 
 コラム ノアの洪水はヤハウェのリセットボタン? 
2.歴史書
 ヨシュア記──魔将軍たちのカナン侵攻記 
 コラム 出エジプトからカナン征服の実際 
 士師記──荒れ行く世界と英雄たち、全ては神の茶番劇
 サムエル記(上・下)──神の居ぬ間に権力闘争 
 列王記(上・下)──グダグダ王国分裂記 
3.預言書
 イザヤ書──300年分の電波な預言つめあわせ 
 エレミヤ書──激流に流される木の葉の如き預言者の運命 
 エゼキエル書──気分屋ヤハウェの残酷物語 
 十二小預言書──夫婦漫才やショートコントなど色々と
4.諸書
 詩篇──YHVHクルーのイルでドープなリリック集 
 ヨブ記──徹底討論! 神の救いはホントにあるのか!? 
 箴言──格言集と淑女とビッチ
 ルツ記──旧約聖書きっての良識派テキスト
 雅歌──旧約聖書きっての桃色派テキスト
 コーヘレト書──生きるって……空しいよね…… 
 哀歌──滅亡せしユダ王国に捧げる追悼歌 
 エステル記──悪意と憎悪あふれる地獄の喜劇 
 ダニエル書──やっと出てきた「死者復活」の概念 
 エズラ記──悲劇! 民族浄化で引き裂かれる家族の絆!
 ネヘミヤ記──それはひょっとして、あなたの妄想なのでは? 
 歴代誌──サムエル記・列王記をまとめなおしてみたよ!

Ⅱ 新約聖書
5.福音書・使徒行伝
 マルコによる福音書──共観福音書の比較で見るイエスの生涯
 ヨハネによる福音書──悪霊に取り憑かれたイエス 
 使徒行伝──イエスが死んだ後のこと 
6.パウロ書簡
 テサロニケ人への第一の手紙──俺様パウロ! 死者は蘇るよ! 
 コリント人への第一の手紙──俺様パウロ! 俺がルールだ!
 コリント人への第二の手紙──俺様パウロ! 逆らう奴は許さない! 
 ガラテヤ人への手紙──俺様パウロ! ちんこは大切にな! 
 フィリピ人への手紙──俺様パウロ! 俺への支援は楽しいだろ? 
 フィレモンへの手紙──俺様パウロ! その奴隷、俺にくれ! 
 ローマ人への手紙──俺様パウロ! 人間皆平等! 神に感謝しろよ! 
 コラム ベスト・オブ・パウロ寝言10選 
 コロサイ人への手紙──キリストvs宇宙 
 エフェソ人への手紙──両極端に分かれる解釈の余地 
 テサロニケ人への第二の手紙──キリスト教的終末論の基本モデル 
 テモテへの第一の手紙──パウロ本人すらしのぐ唯我独尊文書 
 テモテへの第二の手紙──人妻たちのいけない課外授業 
 テトスへの手紙──おまえら、自分の身分をわきまえろし 
 コラム パウロの矛盾一覧 
7.公同書簡・黙示録
 ヘブル人への手紙──新説! イエスは「スーパー大祭司」だった! 
 ヤコブの手紙──慈愛の教典かパウロへの皮肉か 
 ヨハネの第一の手紙──見よ、これが背教者だ!(パート1) 
 ヨハネの第二の手紙──見よ、これが背教者だ!(パート2) 
 ヨハネの第三の手紙──ある意味、信仰のリトマス試験紙 
 ペトロの第一の手紙──迫害されるってキモチいい!? 
 ユダの手紙──悪口ボキャブラリーの展覧会 
 ペトロの第二の手紙──昔の人もパウロのことは良くわからない 
 ヨハネ黙示録──少年漫画のラストバトル
おわりに
付録 ダークファンタジーデータベース
参考文献 

とくに、パウロについては口をきわめてその言行のひどさをあげつらっているが、改めて「ベスト・オブ・パウロ寝言10選」とか「パウロの矛盾一覧」をまとめていて、かけている手間が凄いのよ。

もちろん、クリスチャンの人はいい気がしないだろうが、本書を副読本にすれば、聖書を読む際に、むりに整合性を求めて混乱したりせずにすむのではなかろうか。

[J0452/240126]

山口育子『賢い患者』

みずからのがん経験も元にしながら、「賢い患者」として医療に関わる方法を提案する。こういう積極的な方がいてくださるから、世の中が良くなるという気持ちと、病気になってなお「賢い患者」たらねばならないのは、なかなか辛いなという気持ちと、両方。岩波新書、2018年。

序章 私の患者体験
1章 患者、家族の声を聴く──電話相談
2章 患者や家族が直面したこと──comlに届いた相談から
3章 患者が医療を受けるとき──『新 医者にかかる10箇条』
4章 患者が医学教育にかかわる──模擬患者
5章 患者が病院を変えていく──病院探検隊
6章 患者が参加する──「医療をささえる市民養成講座」
7章 患者を“支え抜く”ということ──辻本好子のキーパーソンとして
あとがきにかえて

本筋からまったく離れてしまうのだけど、自分の関心である終末期体験のエピソードが出てきているのでメモ。

危機状態に陥ったとき、耳だけが鮮明に聞こえていたという話(26)。また、いわゆる幽体離脱の体験(27)。「この経験を通して、私は「死とは感情がなくなること」と考えるようになりました。…… 「死」とは恐れるものではなく、肉体を持つ人間に備わってしまっている自力ではどうしても制御できない〝感情〟を昇華できることなんだと感じたのです」(27-28)。

さらに、著者の先達である辻本好子さんの死の場面。著者自身がそのとき手術を受けていて、「手術が終わって二日目の朝七時ごろ、ぼーっとベッドに横になっていたときです。私の耳に明らかに辻本の私を呼ぶ声が聞こえました。名前を呼ばれただけですが、その声が「ごめんね、もうこれ以上がんばれない」という想いが込められたメッセージだと確信を持って伝わってきたのです」(227-228)。例によって、まさにそのときに本当に亡くなっていたのだと。

患者の権利を求めて、きわめて現実的でアクティブな人のお話だけに、印象的。[J0451/240125]